家に帰る途中、街頭のテレビでワイドショーがやっていた。
乗る予定の電車の都合もあって中途半端にしか見られなかったけれど、閑静な住宅街で起こった猟奇的事件が話題だったらしい。
にわかには人の手で行われたと思えない程の手口からして、近い内に警察からの要請があるかもしれない。
彼らは必要なときだけ、必要な分自分を使う。
こちらだって推理以外のことがしたいわけでも、社会的名声が欲しいわけでもないので気が楽ではあるのだが。
だからといって、あれ程簡単に掌を返すような扱いをするのはいかがなものなのか。
よくもまあ、そんな社交性で世間が破綻しないでいられるものだと、ときどき不思議に思う。
電車を乗り継いで自宅に近い駅に近づく内に、車内に自分以外いなくなってしまった。
終点に近い駅ではあるが、こんなことは異常事態以外の何事でもない。
言い知れぬ不安を感じながらも、ただの偶然に平静を失う自分に呆れてしまう。
視線をさ迷わせていると、冗談みたいな色の夕日を直接見てしまって反射的に目を閉じる。
「きみはあのじけんにかかわる。これまでより、ずっとふかく」
網膜に残った太陽に閉口していると、少し拙い印象を受ける声が聞こえてきた。
瞼を上げて正面を見れば、ちらちらする視界に長い金の髪を肩の下まで伸した子供が立っていた。
目の前に立っている少年は座った自分と同じくらいの目線の高さで、瞳は揺らがずにただこちらを見据えている。
「あの、ひとだったあくまも」
ああ、あの血のように赤い太陽を背にして立っている。
そう気付いた途端、背筋が凍りついた。
この電車は走っているのに、じりじりとだが常に位置が変わるはずの太陽がいつまで経っても現れる気配がない。
細い少年の背がどうやって隠しているのか、皆目検討が付かなかった。
「……人だった悪魔」
声が出なかったり掠れたりするのではないかと危ぶんだが、平生と変わらない具合だったので少々安堵する。
「そう。せかいをせんねんのねむりにつかせた」
「この世界の?」
子供が小さく首を振る。
そうだともいえるし、そうでもないともいえる、と少年は続けた。
「せかいはうまれかわってしまった」
まるでこの世の生き物でないような。
「かれのごうはせんねんをすぎてもゆるされず、せかいをめぐりつづけている」
ふ、と色素の薄い髪が赤みがかった。
「かれはじゅうぶんぼくをたのしませた」
背中に隠していたらしい太陽が、じりじりと顔を覗かせるせいで少年がよく見えない。
その独特な赤い光の中で、人形のような精巧な顔立ちに相応しい無表情が少し歪んだような気がした。
「きっとこれからもずっと」
最後の一声は太陽の赤さを前に小さく響いて、眩しさに一度だけ目を閉じてしまった。
慌てて瞼を上げたときには少年はどこにも見当たらず、代わりにちらほらと一般の乗客の姿があった。
つまるところ、非常に質の悪い白昼夢だったのだ。
電車で眠りこける程疲れてはいないつもりだったのだけれど、どうやら思い上がりだったらしい。
きつく握り締めていた手が湿っているのを感じて、直斗は深く溜め息を吐いた。