愛するあの子にせめてハートを。



 長い間炎天下にいた体には少々冷たすぎるジュネスの食品売り場で、ぱたりと携帯電話を閉じる。
 ばらばらに散っていく女性陣を見送って、不安そうにしている花村に目をやった。


「何」


「オムライスって、チキンライスとか入ってるやつだよな」


 オムレツとオムライスを昔から混同してしまう。
 ちょっと考えたら米を使うのはライスが付いているのだからオムライスの方に決まっている、と分かるようなものなのだが、口にするまで何故か確証を得られない。


「……お前オムライス作れるよな!?」


 がしり、と効果音が付きそうな勢いで花村に肩を掴まれた。
 そんな縋るような目で見ないでほしくて、思わず視線を逸らす。


「作ったことはないけど、チキンライス作って、卵に包んであるだけなんだから、多分」


「そういう態度で言われても、納得できねえよ!」


 背けた顔がいけなかったのか、それとも最後に付け足した多分のせいか分からないが、花村の不安はエスカレートしただけのようでがくがくと肩を揺さぶられる。
 そうもされると自分まで不安になってくるのが不思議だ。


「や、でも塩瀬先輩料理上手いじゃないっすか」


 静観していた完二が助け舟を出すと、揺さぶっていた手が止まる。


「そうだな、大丈夫だよな。お前だけが頼りなんだから、頼むぞ!」


「林間学校の料理ってたかがカレーすよね……?」


 完二に尋ねられて、いい加減忘れかけていた衝撃が甦ってきた。
 食感が一等鮮烈に浮かんできて、ぞわりとおぞけが走る。


「……筆舌し難い」


「俺あれで、料理の自己申告は当てにしないことにした。ホントお前、菜々子ちゃんの身の安全のためにも頑張れよ?」


 肩に乗せられた手を外しながら頷くと、花村が降ろされた手でそのまま拳を作る。


「よし! じゃ、俺材料取ってくるな」


 ガッツポーズで気合を入れたらしい花村がひらりと踵を返した。
 役割分担ということなのだろうか。


「誰か倒れたりしねえだろうな……」


 独り言なのか、それともフォローを期待しているのか完二が呟く。
 さすがに倒れる前に吐くだろうとは思うのだけれど、断言できる勇気はなかった。






Q,主人公のオムライスにハートを描いたのは?

A)奈々子が不憫すぎて主人公が描いた。
  2、花村が「愛のエプロン」とか言い出した。
  3、奈々子がお絵かきしたがった(愛の共同制作)。