やっぱりいいと訂正すると、花村が僅かに眉を寄せた。
苛ついているわけではなく、きっと心配して何かを探ろうとしているのだろう視線を感じる。
「あー、昨日のリーダーが嫌だった、とか?」
登校の途中なのだから、人目が多い場所なのである。
そこでこんな話題をして大丈夫なのかと周囲に視線をやったが、どうも皆自分のことで精一杯のようだった。
「いや、嫌じゃないんだ。ただ、俺なんかよりお前の方が適任な気がして」
始めにマヨナカテレビが被害の原因か確かめようとしたのは花村だった。
それが多少不純な動機が混じっていたとはいえ、彼にはそれだけの行動力がある。
確かに自分はいち早く、それも特別らしい力を得た。
けれどそれはそれだけの話で、自分は花村に付いて行ったにすぎない。
「俺はお前がリーダーの方が良いと思う」
昨日と同じような意見を口にした後、花村が小さく首を横に振った。
「というより、俺がお前にリーダーをやってほしいんだな」
「どうして?」
「どうして、って……」
花村が一度長めに瞼を落として、頭を軽く掻いた。
「ほらあのときさ、俺、クマと騒いでばっかで禄に話進んでなかっただろ」
焦る花村の語気の粗い言葉と、自分達を犯人だと思い込むクマを思い出す。
所々に挟んだ質問の口調を押さえ気味にしたせいか、クマはこちらの言葉をちゃんと聞いたような気もする。
「お前の方がああいうとき、頭に血が上んないみたいだしな。こう、安定感っていうの? どっしり構えてくれてるっていうかさ」
「別に、俺だって慌ててた」
「……ほんとか?」
頷くと、花村が少し間を置いてから吹き出した。
「……何」
「いや、だって、あの顔で!? お前思いっきりいつも通りだったぞ? 信じらんねー!」
自転車を支えにして、身を折って花村が笑う。
揺れる後頭部を見ながら、一発くらいなら殴ってもいいんじゃないかと思った。
「何かむしろ安心した。当然だけど、俺もお前も同じなんだな」
叩こうかどうか迷っている内に、花村が顔を上げた。
まだ笑みの残る顔を見ると、不思議とちょっとした腹立たしさが消えていく。
「ま、そんな感じで頼むぜ、リーダー!」
「分かった」
昨日と同じ答えを返すと、花村の笑みが深まった。
明るい表情にこっちまで頬が緩むのを感じる。
こんな笑顔を守れるなら、どれだけ幸せなことだろう。
そう思わずにはいられなかった。