Boy, be ambitious like this old fiend



 デビルサマナーパロと見せかけてオリジナル設定もりもりでそれを短く片をつけようとしたせいでぎゅうぎゅうになり分かりにくい仕様になっていてすみません。




 熱い。
 体中に渦巻く欲求を少しでも晴らそうと、アルフレッドは大きく息を吐いた。
 普段とは異なる色合いに染まるビルに背を預けても、咎めるように視線を寄越す者は一人もいない。
 いや、そもそも人などここには自分以外に一人もいなかった。

 異界である。
 人界と魔界を繋ぐ境界線である場所で、アルフレッドは蹲っている。
 子供の駄々にも似た呻き声を上げて顎を上げると、煌々と世界を照らしている月のような光源が視界に入ってきた。
 蛍光灯のようなそれが円を描いているのは、異界に出てきている悪魔が否応なく興奮することを示している。
 ここら一帯で人界に手を出して悪さをしようとしている輩はすでに蹴散らしてやったものの、いつまでも新手が寄ってこないなんてことはないだろう。

 さっさとこの忌々しい願望を取り払わなければと思って弱々しく首を振と、自分の前で空気が揺らいだのが分かった。
 一気に体が緊張するが、その原因を認めた瞬間に全身が脱力する。

「ざまあねえな、アルフレッド?」

 見事な赤髪を映えさせる黒いスーツに身を包み、輝かしいグリーンアイを満足げに眇める男を見てげんなりとする。
 最早赤毛と称して人間のそれと同列に扱うのが躊躇われる程の赤い髪の隙間から伸びる角と、肩甲骨の辺りから映えているであろうこうもりを思わせる姿は今や見慣れたものだ。
 正に悪魔、という特徴を備えている彼だが、恐らく十年前の自分であったなら今日はハロウィンではないけれど、と声をかけていたに違いない。
 ホラー映画などは昔から大の苦手だったが、悪魔などはナンセンスだと思っていた。
 幽霊や超常現象などならともかく、悪魔などは思い込みの世界の話だと思い込んでいたのだ。

 ちょうど十年前、アルフレッドは生死の境をさ迷った。
 いや、あれは恐らく完全に死の領域に体を丸々浸してしまったのだと思う。
 前方不注意の車が原因の交通事故の痛みは遠のいて、酷く穏やかで甘美な空間に降り立ったのを覚えている。
 どちらに行こうかと考え込んでいる内に、眼前に降り立ったのがこの男だったのだ。

 生きたくないか、と口にした男にこのままで構わないと伝えれば、如実に呆れたような顔をされたものだ。
 お前が死ねばお前の両親の心は若くして亡くなった可哀想な息子に気持ちが片寄るだろう。
 その皺寄せは全てお前の兄弟に行くはずだ。
 お前は自分の精神の安定のために、両親と、何よりも兄弟に負担を負わせるのか。
 俺はお前を生かすこともそのまま殺してやることもできる。
 けれど、お前が家族を見捨てるのであれば俺はその事実を家族に伝える。
 男はぺらぺらと用意していた言葉であるかのように滑らかな口調で告げる。

 脅迫じゃないか、と思わず非難すると、満足そうに彼の唇が弧を描いた。
 芝居がかった舌なめずりをした後に、赤毛はその通りだと口にした。
 お前があの事故に遭うずうっと前から、こうなるのは決まっていた。
 死に掛かって、俺の手で死にそこなって、俺のために働くんだ。

 俺に従え。
 そう言った男の言葉に逆らえなかった理由が今でも分からない。
 少なくとも、頷いた瞬間に両親やマシューのことも心地よい空間のことも頭にはなかった。

「煩い。君は黙っててよ、アーサー」

 くらくらする頭と同じくらいのスピードで手を払って彼を追い払おうとすると、至極ご満悦らしい含み笑いが落ちてくる。
 何でこの人が上司なんだろう。
 あの時頷いてしまった自分が悪いのだけれど、そう思わずにはいられない。

 十年前のあの日から、アルフレッドの前には魔の世界が突如顕現した。
 初めは外界の脅威から自らを守るため、アーサーからの異界と渡り合う力の手ほどきを受けた。
 後に、悪魔を使役し魔を払う組織と接触し、アルフレッドはその組織から正式に自分の生活圏内に重なっている異界を管理するように言い渡されたのだ。
 そしてそこがちょうどアーサーが治める地域と重なっているため、毎度ちょっかいをかけにくるのだから面倒だ。
 どれだけ暇なんだ。ちょっとは人に任せてないで働け。

「どうせディスチャームの在庫切らしたんだろ」

 火照った頬に革の手袋に包まれた指先が容赦なく突き刺さる。
 魔力に寄る魅了がかけられていると一目で分かる状態らしいのが酷く羞恥心を煽って、アルフレッドの体が余計に熱くなるのを感じた。

「ほんとうるさい」
「チャームディできる仲魔が前までいたもんなー? この前の合体で継承外したのはお前だろ」

 そんなことまで把握しているのかと、内心で唾を吐いたつもりだったが表情に出てしまったのかアーサーがくつくつと喉を鳴らした。
 彼の指摘通り、比較的長く共にいたモー・ショポーを他の悪魔と合体させてしまったのだ。
 新しい悪魔にもエースとして力になってもらってはいるが、技の継承において魅了を解除するチャームディよりも回復魔法であるメディアを取ったのは記憶に新しい。

 今まではモー・ショポーに魅了の回復を頼っていたので、完全に常備しておくべきディスチャームの存在を忘れてしまっていた。
 それでこの様である。
 現場に出てすぐの新人ではあるまいし、笑われてしまっても仕方がないのかもしれない。

「お前、実戦に出てから何年目だったっけ?」

 ちょうど思考が向かっている方向と同じ質問をされて、途端に苛立たしさが湧き上がった。
 恐らく下品なにやつきを相貌に湛えて、語尾を上げながら問いかけてきているところが悪いのだろう。
 たとえ正しい指摘であったとしても、反発心を抱かずにはいられない。
 自覚した上での行為だと手に取るように分かるので、ふつふつと湧き上がる感情が全く抑えられない。

「いつか絶対に泣かすからね!」
「おーおー、折角俺が目を付けてやったんだから精々頑張るこった」

 激情に任せて叫ぶと、アーサーが子供を褒めるときのような表情で笑ったと思ったら乱暴にアルフレッドの髪をわしわしと撫でた。
 反射的に目を閉じてしまったが、慌てて何がしか言い返してやろうと思って視界を開く。

「子供だと――」

 勢いよく吐き出した言葉はしかし、ぶつけるべき相手がいないと気がついた瞬間に霧散する。
 飾りのようなサイズのアーサーの翼は実際に飾りである。
 彼が望めば異界と魔界の瞬間的な移動など難しいことではない。
 アルフレッドは長い付き合いの中で彼が羽を羽ばたかせている姿など見たことがなかった。
 吐き出せなかった苛立ちを溜め息で誤魔化して、再び空気を吸い込んでから息が今までのように浅くなかったことに気がついた。
 どうやら最後に悪魔と戦った際にかけられた魅了の術が解けたらしい。
 恐らくアーサーがいなくなったのはそれを察したからだろう。

 アーサーは魔界の権力者である。
 彼は悪魔の中でも規律を愛する性質を有している。
 実際に彼の領地を見たことはないが、伝え聞いた話では人界とそう変わらないということだ。
 魔界という言葉からはにわかには信じられないが、彼が治める場所には妖精族が多く住まうと知って合点が行った。
 アルフレッドが所属する組織は人界の生き物でないもの全てを指して悪魔と呼ぶのだ。
 その中には時に聖なるものさえも含まれる。

 アーサーは魔界と繋がっている異界にはさほど興味がないようで、異界の管理は組織が主導権を握りながらアーサーとの協力体制を築いている。
 こんな良好な関係を結んでいる地点は珍しいらしい。

「ああ、もう!」

 あのとき死なずに、家族が幸せであり続けていること。
 生きる術を教えてくれたこと。
 公にはできないけれど、子供の頃から憧れていたヒーローとして生活できていること。
 感謝しなければいけないのは分かっているし、事実感謝している。
 ついでに言えば、先程の行動にも感謝するべきなのだろう。
 魅了が解けるまで近くにいて、他の悪魔を近寄らせないつもりだったのだ。
 彼のひねくれた親切心に気づかないほど愚かではない。

「絶対に泣かす……!」

 アルフレッドはここ数年前からの目標であり、ついさっき本人にも吐いた言葉を胸に刻む気持ちで口にする。
 もう少し彼が素直であるならば、こんな願望を抱く必要などなくなるのだけれど。
 忌々しい彼の性分を思ってアルフレッドは重苦しく息を吐く。

 彼の想定を超える力でもって、アーサーによる庇護の向こう側の世界でもヒーローでありたい。
 彼の手足となって働く都合のいい駒ではなく、本当の意味で彼を助けられる存在になりたいのだ。

 多分、あの人と対等になろうとするならば、一度彼に泣いてもらうしかない。
 それくらいしなければきっと彼は認めてくれない、十年来の付き合いはそんな確信めいた思いを胸に宿らせている。
 このまま力をつけたとしても、彼はアルフレッドのことを自分の飛び切り上等なおもちゃだと思い続けるはずだ。
 認められない。そんなことは絶対に認めない。

「本気だからね」

 姿は見えなくてもどこかで聞き耳を立てているような気がして、アルフレッドは言い聞かせるように言葉を紡ぐ。
 アーサーが宙に体を横たえて、腹を抱えてけらけらと笑っているのが想像できて、ぎゅっと眉間に皺を寄せた。
 確かに、一世紀も生きられない人間が、一世紀生きて初めて一人前であるくらいの時間軸で生きている悪魔の領主と対等に渡り合おうなんて夢物語だ。

 それでもまずは求めなければ。
 何一つ願いは叶わない。



【どうでもいい設定】
アルフレッド(19歳)
9歳のときに死に掛けるが、アーサーの手引きによって生還する。
その後、悪魔が見えるようになるが、同時に悪魔の脅威に晒されるようになる。
その脅威から自衛するという名目でアーサーがアルフレッドにデビルサマナーとしての指導を受ける。
アーサーのもくろみ通りに頭角を現したアルフレッドをデビルサマナーの組織に紹介させる。
実力を認められ、アルフレッドは生家の周辺が担当地域となっている。

アーサー
魔界の中でも妖精が多く住む地域を治めている悪魔。
秩序を重んじ、領地は比較的平和。
異界まで管理して人界への被害を抑えるつもりはなかったが、積極的に脅威を与えたいわけではない。
なので、デビルサマナーの組織からの管理委託の申し出には快く応じる。
アルフレッドの潜在的な力に気づき、成長を手助けしている。
( 言ω言)でも絶対泣いてやんねー
弱点は精神攻撃。
そのため常にマガタマ(イヨマンテ)を飲んで弱点を潰している。
(真3でヨヨギ公園で遊んでたら精神攻撃食らったところを思いっきり人修羅に見られてそれがトラウマになってたりするといいですよね)

マガタマ
悪魔が力を伸ばすために飲み込む生き物。
悪魔に力を与える代わりに、悪魔が得るエネルギーの一部を得ている。
(真3のマガタマの設定を適当に変えています)