197X年当日



 誕生日が終わる。
 近しい人のものから極々政治的なものまで多種多様な贈り物に囲まれて、さすがに満腹を上回る感覚を訴える腹を撫でた。
 多分このプレゼントの中には無記名の物が一つあって、中にはちょっと埃っぽいセンスの品が入っていることだろう。
 今日という日を思うだけでも苦しくなるだろうに、律儀なことである。

 そんなことしてくれなくて構わないよ。
 そう告げてしまえば、彼は泣くだろうか。
 枕をしょっぱくさせるくらいには泣くだろうな、と一人結論付ける。
 だから今年も告げないままになってしまって、彼を来年も苦しめてしまうのだろう。
 けれど彼の感性を考えれば、彼は自らの行いを否定されるよりも自身の心と体を痛めつける方がずっと楽に感じるに違いない。
 それにしたって不毛なことなのだけど。

「君からはもう、これ以上ないプレゼントをもらってるのにな」

 一人呟いて、一度口を閉ざす。ああ本当に、本当にその通りなのだ。
 彼からもらった唯一無二の贈り物は今日という日を輝かしい特別な日に変えてくれる。
 フランスの地で宣言したあの日から、毎年律儀に、忘れることも忘れられることもなく。
 アメリカの隅々まで照らし出し、全土を喜びに振るわせてくれるのだ。

「ありがとう、あのとき銃を下ろしてくれて。アメリカの独立を受け入れてくれて。あれはイギリス政府としての判断なんかじゃなかったし、君のわがままだったって信じてる。君が俺の独立を、誕生日をくれたんだ」

 最早パーティーの閉会後の恒例になってしまった文言を口にして、その言葉に嘘偽りがないことを確認する。
 あの瞬間を思い出せば、ちくりと胸を刺す感傷とむずむずするような感覚が一度に沸き上がる。
 前者は庇護者としての彼を永遠に失った瞬間の切なさであり、後者はあの瞬間が彼の愛情の集大成を感じるからだ。
 彼はきっと、自分がこんな気持ちを抱えているだなんて露とも思っていないだろう。
 彼がアメリカの独立記念日を直に祝える日が来れば、この気持ちを打ち明けられるだろうか。

「……やっぱり彼には皮肉っぽく聞こえるんだろうなあ」

 先の言葉を聞いただけで、皮肉だと思った彼が目を真ん丸にしただけに留まらず、涙を零すのが目に浮かぶ。
 お得意のマイナス思考で素直な言葉を捏ね繰り回して、後悔の海に沈むに違いない。
 全くもって面倒臭い人なんだから。

 それでこそ彼なんだけれど、面倒臭くないはずがない。
 それでも不思議と苛立ちを覚えない感情がくすぐったくて笑みを零してから、ひとまずは今年もわざわざ寄こされた彼からのプレゼントを探すことにした。