どす黒い赤ばかりが滲み出ていたのに、突如目も覚めるような赤が吹き出して顔に散った。
ああ、静脈が破れたか。
ぬめる手で棒切れを握り直して、高く高く振り上げた。
「――っ、は……はは」
オレンジ色の明かりの下で文字通り跳ね起きた。
手の平を覚束無い光に照らしても、嫌に手汗を掻いているだけで普段となんら変わらない。
夢だ。分かっている。
何度も何度も数えることすら叶わない程に見た夢だ。
弟を殺す夢だ。
何故あのとき、棒切れなど選んだのか。
もっとあれを苦しませない方法は山とあったはずなのに、自分は息が止まるまで何度も叩き、刺した。
それ程太くもない木の棒から皮を千切る鈍い衝撃や、肉を抉る感触が伝わった。
鼻を突く体液の臭いも覚えている。
痛みに苛まれながら、こちらを見上げてくる弟の表情が忘れられない。
そこにあったのは恐怖であり苦痛であり疑問だった。
憎しみも恨みも存在しなかった。
恨んでくれたら罵ってくれたら、今これ程に苛まれることはなかったかもしれない。
わざわざ何度も目の前に現れることなどなかったのかもしれない。
もし現れたとしても、その人は明確な意思を持って行動するだろう。
先日顔合わせをした、従兄弟の造形を思い出す。
アベルの魂の新しい器に違いなかった。
毎度のように欠片も覚えていないらしい柔らかい幼子は当然のように自分に懐いてきた。
子供の体温と体の中心から湧き出る血の温度はとても似ていて、一瞬息が詰まった。
自らの罪を突き付けられるその度に、いっそ殺してほしいと思う。
彼に、彼らの誰か一人に憎まれて殺されるなら、アベルと同じように棒切れで殺められても構わない。
あの、憎まれるべき相手から注がれる無条件の愛情に勝る罰などどこにあるだろうか。
どうか、七倍の罰を恐れぬ程の憎しみを彼に。
それとも神を殺したならば、人はその罰を得ずにすむのだろうか。