「俺ね、人間じゃないみたいなんだ」
訳の分からない世界で、初めて会った人間らしい少年はそう言って少しだけ頭を下げた。
さっきまで合わさっていた視線が外れて、途端に覚束無くなった瞳が揺れる。
「みんなは俺のことをあくまだって言うんだ。人修羅なんだって」
人間らしいのは雰囲気だけで、悪魔の体の持ち主であることは始めから分かっていた。
奇妙な入れ墨も首の後ろに生えている角も、それを物語っている。
「ごめんね」
項垂れていた顔を上げると、少年は口角を上げて笑って見せた。
この類の笑顔を自分は知っている。
本当に時たま鳴海が見せる笑顔にとても似ているのだ。
まるで今にも頬に涙が伝いそうな笑顔。
違うのは鳴海よりも、この少年の方が涙の気配を隠すのが苦手なことだけ。
傷つくことに慣れていないのに、受け入れようとする悲しい表情。
「ひとの心が卑劣なのをひとは悪魔と言います。ひとの姿形が常とは異なることをひとは化け物と言います」
こちらが喋ることを意図していなかったのか、少年が辛そうな笑みを消し去った。
少年が保ち続けていた距離に踏み込むと砂がじり、と鳴く。
「その言葉は人間にも使われるのですよ」
虚を付かれたらしく、少年の瞳が揺れる。
同じ年頃のはずの少年は酷く小さく、自分以上に華奢に見えた。
「……ありがとう」
どうにか絞り出された言葉を頷いて受け取りながら、頬を走る黒と緑の入れ墨を思う。
泣いてしまいそうな笑顔なのではなく、彼はいつも泣いているのではないか、と。