【えろくない冒頭】
「訓練指導?」
目の届く範囲に身内の者がいない状態で食事をするなど、自国を離れてから以来なかったように思える。
プロイセン側の願いにより設けられた昼食の場はこじんまりしたもので、決して豪奢と言えるものではなかった。
けれどイギリス自身フランスのように絢爛豪華な空間を好むタイプでもない上、肩肘張った生活を続けてきたから正直ありがたい。
プロイセンが口にする話もどちらかというと世間話めいたものが多く、戦争を見据えた血なまぐさい打ち合わせで見せる不遜な態度は薄められているように感じる。
駆け引きという意味合いもあっただろう神経を逆撫でする雰囲気は影を潜め、代わりに大胆さでもって躊躇いもなくイギリスとの距離を詰めてくる。
普段のイギリスであれば何かしら不快感を覚えるであろう勢いであるはずなのだが、ともすれば相手を警戒されてしまうような行為を許させてしまう空気を彼は持っているらしい。
「あー、やっぱりお前もしねえのか? 実戦になったら一緒に戦う奴らなんだから、普段から接触は多く持つようにしてるんだよ」
焼き上げられたパンを上下に揺らすものだから、生地が飛んでいってしまわないか気になって仕方がない。
振られるパンの先を視線で追っていたら、イギリスの眼球運動に気がついたらしいプロイセンが特徴的な声で笑った。
「……お前が行儀の悪いことするからだろ」
「お前小動物みたいな動きしてたぜ?」
まだ笑いの波が引かないらしいプロイセンを尻目に、イギリスは皿に盛り付けられた副菜に手を伸ばす。
もう既に何度か口にしたことのあるキャベツの酢漬けは塩漬けにされているらしい豚肉の煮込みのこってりした味わいを相殺してくれる爽やかな酸味があって、二つを並べられてしまうともう永遠に食べ続けられるような気がしてくるくらいだ。
素朴な味わいだが、好ましい味である。
「しかし、訓練指導か……」
「まあ、お前だったら必要ないかも知れねえけど」
キャベツの芯の部分を咀嚼して飲み込んでから、呟いた途端に痛いことを指摘された。
プロイセンの言葉の重さに堪えかねて俯くと最近富みに胸辺りの布を押し上げ出した膨らみが視界に入る。
元来少年めいた容姿をしていたから、百年も前ならば多くの者がイギリスの性を取り違えて認識していただろう。
けれど、今となっては盲でもない限りイギリスを皮肉であればともかく、少年と称する者などいなくなってしまった。
国であるのであれば身体的特徴など二の次のように思えるが、なまじっか人間と同じ姿をしているために人間と同等の対応をされがちなのだ。
女性であることが行動の枷となっていることを考えれば、忌々しいものと称せざるを得ない。
イギリスもできることなら目の前の男のような身体を持って生まれていればよかったと思う。
そうすれば少なくとも、王室で侮られたり戦場で好奇や欲の混じった視線を向けられたりすることもなかっただろう。
「あー、なんだ。悪かった」
顔に思考が表れていたらしく、プロイセンがもごもごと謝罪する。
ゆるゆると息を付いて背もたれに背を押し付けながら、彼の隣国に女性がいたことを思い出した。
きっと彼女が女性特有の障害に苦しむ姿を度々目にしてきたのだろう。
故に、彼の謝罪には意味があった。
「揶揄しなかっただけ及第点だな」
ふ、と口元を緩めると、プロイセンが如実に緊張を緩めたのが分かった。
一時的にとはいえ同盟を結ぶ相手と考えると不安がないわけではないが、個人的な付き合いでならば悪くはない。
「……訓練指導って近い内にやるのか?」
そう、プロイセンは同盟者である。
それなのに、イギリスはまだ彼の力量が測りきれずにいた。
端的に評すのであればうつけなのだが、根幹が愚か者である国がこんなに短期間で台頭してくるとは俄かには信じられない。
事実、人を食ったような物言いに会議の流れが飲まれてしまいそうになることも少なくはなかったのだ。
どちらかといえばスペインと似通った底の知れなさを感じる男の情報をイギリスは少しでも早い内に集めてしまいたかった。
「なんだよ。俺様の雄姿が見たいのか?」
自尊心を擽られたのか途端に図に乗った態度を示し出すプロイセンを多少不快に感じながらも、目的確かに間違ってはいないから困ってしまう。
彼が少なくともイギリスの陣営側である内は、プロイセンが有能であるのはありがたい。
逆にプロイセンと袂を分かったときを考えれば、彼の手の内を知ることは重要である。
それに。
「青二才にもならない奴がどうやって兵を纏めるかは正直興味がある」
「――一生青二才にもなれない奴が言ってくれるな」
手を抜かれる訳にはいかないので軽く挑発してみれば、想像以上に簡単に食いついてくる。
唸るのを堪えるような口調は今まで聞いたこともないそれで、背筋がぞわりとそば立つのを感じた。
感情の発露は正直なタイプだが、どこまでを晒していいのか理解している。
恐らく、彼はイギリスがどんな反応を求めているかまでを把握しているのだろう。
手の内を見せ、自身の能力を示そうとしている。
それが全てではないのには間違いないだろうが。
「そうだ。そこなんだ。俺はどうあがいても男にはなれないが、それでも男達の上に立たなければならないときがある。明らかに身体面で劣った相手にどうすれば従おうという気持ちになる? 確かに俺達は経験や技術という点では秀でているだろうが、かといって一人一人に対して披露していくわけにも行かないだろ? どうやってそこをクリアして指導に当たるんだ?」
我ながら真実めいた疑問符を作れたと思う。
実際に疑問なのだから、当然と言えば当然なのだが。
イギリスを国だと認識している者が大半を占める軍の中枢でさえ、有事に意見が食い違えばイギリスの外見を理由に軽んじようとする輩がいるのだ。
自らの判断が正しいと思うが故の行為であるのは理解しているが、だからといって甘んじて受け入れてやる気は毛頭ない。
イギリスが不当な罵りを受けることを恐れれば、何千もの命がふいになってしまうことだってあるのだ。
「じゃあ見ていくか? 口で説明するよりずっといいだろ」
プロイセンがにいっと笑って、先程までの獰猛な空気を吹き飛ばした。
イギリスの言葉を一応の事実であると受け入れてくれたらしい。
小さく頷いて了承すれば彼の笑みが深め、手に残していたパンを口に放り込んだかと思えば水で流しこむ。
「え、お、おい」
「お前はまだ食ってていいぜ! その間に話つけてくるからよ」
最後に自分の皿に残っていた肉の塊をほとんど噛まずに飲み込んで、プロイセンはさっさと一人で席を立ってしまう。
まだ胃が充足仕切っていないのもあってか、彼の動きについていけずに半端に立ち上がった状態で呼び止めることしかできなかった。
軽く肩を押されて席に戻そうとされてしまえば、抵抗する理由などないので戻らざるを得ない。
じゃあな、と口にしてひらひらと手を振りながらプロイセンが去ってしまえば、残るのは肩に残る違和感とふんわりと香る食事の芳香だけである。
他人に肩を触れられたことなんか、生まれてこの方あっただろうか。
幼い新大陸の子を抱いていたときはもちろん縋られたこともあったが、あの子達を他人と呼ぶには随分抵抗がある。
身内と呼べるような人物を除いて考えたとき、身体に触れるのを許している人物などそうはいない。
彼のコミュニケーションの距離感が一般的なそれよりも狭かったとしても、イギリスがあっさりと許してしまう理由にはならない。
けれど、あんまりにも自然な動作だったものだから、不快感すら覚えられなかった。
「……食えねえ奴」
自分も人のことをいえないのは重々承知しつつも一人ごちてから、皿に残ったキャベツを口にする。
さっぱりとした酸味のある葉を齧る内に、小さな吐息が鼻先から漏れていった。
【クンニ書きたかったんです】
「ふっ……ぅぁ、くぁ!? ゃ、だめ……っ」
膣口から芽までをべろりと舐め上げられてから、そのまま陰核を弄られるものだと思い込んでいたらとんでもない所を吸い上げられた。
自分で確認したわけではないから確実ではないが、尿道口を狙われているのを察して思わず身を捩る。
身を清めてから来てはいるものの、尿道口の中はどう考えたって清潔だとは思えない。
抵抗されるのを見越していたのか、イギリスが逃げ出す前に腰を捕らえたプロイセンが薄っぺらい身体を引き寄せる。
臀部をプロイセンの身体に預ける姿勢にわたわたとしている内に、再びたっぷり唾液に塗れた舌がイギリスの秘所を濡らした。
「あ、ぅ……ふ……」
膣前庭を舐めながら尿道口を尖らせた舌で突かれると、むず痒いような感覚に襲われた。
クリトリスのような分かりやすさはなかったものの、次第にこれも快楽の一つだと分かってくる。
貪るのではなく女を蕩かせるための動きに応えるように、口元の筋肉が宿主のいうことを聞かなくなってくるのが如実に分かる。
口を閉じてしまえば鼻から呼吸をしなければいけないのが通りだが、もうすでに鼻呼吸では覚束ないくらいに息が上がってしまっていた。
「んぁっ! あ、やだ、あたって……ん、んんっ」
ちゅう、と音を立てて小さな穴に吸い付くのに執心しているせいでより近づいてきたプロイセンの鼻が芽の覆いに触れた。
ほとんど偶然でもたらされた刺激に腰を跳ねさせたのに気をよくしたのか、鼻先が押し付けられる。
すん、とこれ見よがしに鼻を鳴らさせて、消えてしまいたくなるような羞恥心に駆られた。