「っん――」
ヴィラルに足を開かせて、火照ったそこをゆるりと撫で上げた。
ズボンをちゃんと脱ぐ時間も惜しくて、シモンはズボンと下着を半端にずり下げてベッドに手をついた。
頭の端に強姦する男の図が自分の状態と重なるイメージが過ったが、瞬きをして追い払う。
強姦なら押し倒している彼女もそれなりの格好をしているに違いない。
そういうのも捨て難いけど。
「……辛かったら言えよ?」
触れ合わせてヴィラルが小さく震えるのを見てから、一応の労りを見せてみる。
快楽の一波を凌いだらしいヴィラルが生意気にも鼻で笑った。
「お前の方が相当にって、……あ、は…ぁあっ、ぅんっ!」
「……ん、ご名答」
合図もなしに一気に入り込んでから、背筋を走る刺激をごまかすのも兼ねてヴィラルに話しかける。
聞いていないことはないのだろうけれど、話しかけても小さな色めいた吐息しか返ってこなかった。
達したという風には見えないけれど、それの手前のような締め付けを感じてシモンも息を吐く。
「ヴィラル、手、回して」
ん、ととけたような甘い了承があって、背中にわずかな重みを感じる。
「やっぱりあんまり慣らしてないからかな。ヴィラルの中、きつくて気持ち良い」
「……言ってろ」
少々呆れが入ったのが否めない物言いからは痛いとかそういう苦痛のようなものは感じられない。
「動くからな」
「ん。――んん! は…んっ……っひ、あ!」
特に意図するところもなく動かすだけで悲鳴に近い声が上がって、背に回る手の力が強まった。
あまりの反応にいつもは狙う場所を外してやるべきだと思う反面、泣き出すほどに掻き回してやりたい衝動に駆られる。
「あ、ゃ…だめ、シモン……!」
衝動のままに探る動きに気づいたヴィラルが上着を引くが、そう障害になりはしなかった。
というより、初めて抱く体のはずがないのだから、多少抵抗があっても彼女の悦ぶ場所を間違えるはずもない。
「ひっ…やぁあっ! しもっ、ひ、ん!」
一点を突いた瞬間、ヴィラルが引きつった悲鳴を上げた。
後ろに引かれていた上着は一転して、背にそって下に押さえられる。
元々快感をそのまま享受するのを厭う質のせいか、衝撃を受け止め切れられずにヴィラルが背を反らせた。
一気に強まった締め付けに耐え切れずに声を零し、眉を顰めてからヴィラルの背とシーツの間にできた隙間に手を差し入れる。
「やっ!? ぁああっ…ふぁっ……ふか、い……っ!」
反った腰を引き寄せながら奥へ奥へと進ませて、指では到底触れなかった部分を先で捏ねてやる。
堪え切れずに頭を振るヴィラルの頬に手を沿えて固定した。
始めの刺激に目を見開いてしまってから閉じる機会失っていた両目が耳をなぞった途端閉じられて、溜っていたらしい涙が震える睫から滑り落ちた。
「は……ぁ、っん…あ、シモン……っ…」
次の行動が予期できたのか、ゆっくり引き抜くとヴィラルが名を呼んで必死に縋り付いてくる。
完全に浮いた背を撫でて、鼻の頭に口付けを落とすとシモンは落とせるところまで腰を落とした。
「ぁ、ァあああっ!」
水音は耳元で響いた嬌声でかき消されてしまった。
背中に鈍い痛みを感じながら奥を駄目押しで突くと、全身が震えて切れ切れに高くて甘い声が押し出される。
当然内部もきゅうきゅうと締め付けて解放を促すのだけれど、素直に吐き出すのが惜しくて歯を食い縛って堪えた。
「……っ…ふう、ヴィラル、大丈夫か?」
絶え絶えという風体で震える呼吸を繰り返すヴィラルの背中を軽く叩いてやって、どこに向いているのかよく分からない彼女の意識をシモンに向けさせる。
精神力でもって体を支えていたのか、顔がシモンに向いた気配がした瞬間に爪を立てていた指先の力がするりと抜けた。
腕の力が抜けるということは、もちろん体がベッドに落ちる訳で。
「っあ、は!」
粘度のある水音と共に、落ち着ききっていない体には酷だろう刺激がヴィラルを襲い、掠れた声を上げる。
ついでに一度抜いてやって、やはり少し邪魔だったズボンを脱いで呆然と息を吐くヴィラルをじっとりとした面持ちで眺めた。
剥がれてしまってはいるがくちゃくちゃになったシーツの上に金の髪をばらまいて、額を右手の甲で押さえている。
手の影の下にある明るい髪と同じ色の瞳は宙をぼんやりとさまよっていた。
「……ヴィラル」
呼ぶと声に反応してか紅潮した顔がふっとこちらを向いた。
シモンがシーツの下に手を差し入れると無理やりヴィラルを持ち上げると、バランスを崩したヴィラルがシモンの肩にしがみつく。
「シモン……? あ、んん……や…ん」
顔の目の前にある胸の先を甘噛みして、片手をヴィラルの腰に回す。
もう一方の手で余った胸を揉むと抵抗の意志のかけらもない甘えた嬌声が零れ出した。
「まだいけるよな? 俺まだだし、一回ぐらいじゃ済みそうにないけど」
瞼の軽く下がっていた目をゆるゆると瞬きをしながらもようやっと言葉の意味が読み込めたらしく、ヴィラルが目許をふわりと染めて視線を逸らした。
シーツが絡んだままの体をずるずると下げて、シモンの胡座をかいた足の上に乗る。
内股に触れる熱が気になるのか、少し居心地悪そうにシモンの肩にヴィラルの顔が埋められた。
「それは続けても良いってことかな」
背中のシーツを剥ぎながら背筋に指を滑らせると、ヴィラルが息を飲むのが分かった。
「――ッ、そのくらい察しろ!」
「はいはい」
本当は言葉で示してほしかったけれど、彼女の性格からすると上々なのが実際のところなので思わず頬が綻んだ。
シーツを取ってしまうかどうか迷い、結局はそのままにしてヴィラルの腰を持ち上げる。
先を触れ合わせただけで小さな水音が響き、ヴィラルの体に緊張が走った。
「そのまま腰、落とせる? ゆっくりでいいから」
ヴィラルが小さく頷くと、体を浮かせたせいで離れていた腕を再びシモンの背に回した。
「んっ……く、んん…ふ……ん、ン!」
額を肩に押し付けて、ヴィラルが少しずつ身を落としていく。
半分ぐらい入ったところで一息吐き、残りを一気に飲み込み硬めの声を上げた。
摩擦の強さに反射的に中を締めてしまい、それでまた痺れを拾ってしまうらしくヴィラルが小さくしゃくりを上げる。
放っておくとこのまま悪循環に囚われて震え続けるのかと思うとずっと見てみたい気もする。
けれど、シモンにも締め付けはなかなか凶悪に響いて、呑気に構えられそうにもなかった。
「っあ……! しもっ…ゃあああっ……あ、は!」
予告もなく下から突き上げると、無意識だろうがヴィラルが腰を浮かせて逃げようとする。
脇の下から腕を絡め逆向きの羽交い締めをして、ヴィラルの肩を押さえ体を下げさせると堪らないというふうに首を振った。
「ひっ、やっ……や…ぁ……それ、いやぁっ……!」
奥の奥まで押し広げて更に掻き回せば、熱を持った水音が大きく響く。
くぷりと空気の漏れる音がした途端にヴィラルが肩を竦めるのが押さえる手から伝わった。
「ヴィラルは、こういう音苦手だよな」
「うるさ――っぁああ!」
ある場所を掠めた途端、ヴィラルの背中が大きく反ってベッドに倒れ込みそうになった。
よくよく考えるとこういう体勢ですることはヴィラルが嫌がるのであまりなかったから、この場所は初めてとはいわないがあまり刺激をする機会のない所らしかった。
のけ反る背中を押さえ込んで後ろへ寄った重心を前に戻してやって、確認ついでに何度か押し上げてやるとぼろぼろと涙を零してヴィラルが頭を振る。
「……ぁあ…いっ……んん! ……シモン…ぅあっ、シモン……ッ」
「……もうちょっとだけ我慢できる?」
しゃくりの間に交ざるヴィラルの懇願に、少し上から注がれる視線を合わせてシモンは問いかけた。
涙に濡れた瞳が理解を宿すまでに少々間があってから、一度だけ大きくヴィラルが頷く。
頭を撫ぜてやると、ヴィラルが頭を垂れて甘えるように肩口に顔を埋めた。
「――ひぁっ! んぅっ…あ、ああっ……」
片方の耳だけにヴィラルの悲鳴が大きく響いて三半規管に影響でもあるのか、やけにくらくらする。
体を堅くして必死に頂点に押し上げられようとするのを堪える彼女が愛おしくてたまらない。
勢いよく突き上げる腰とは反対に柔らかく触れるのを心掛けながらうなじから指を金色の髪に絡ませると、ヴィラルの全身が大きく戦慄いだ。
あまりの締め付けに喉が鳴って、シモンの意識が白ばんで遠ざかる。
「っぁァあああ! んぁっ…あ、は……んん」
達してしまった後に熱を送り込まれて酩酊したような様子でヴィラルは快楽に目を細めた。
わずかに伸縮する内部はまだ荒い息のシモンを誘って、余韻に浸る暇も与えない。
「っ――あんっ…」
ヴィラルをベッドに押し倒すと、甘えた嬌声がヴィラルの口から上がる。
いつもならどうしても残ってしまうらしい理性がその声を責めるのだが、今はそんな余裕もないようで期待の籠もる視線がシモンに注がれていた。
目が覚めたら体の節々が痛かった。
状況を確認しようと思って目を開けようとしたが、その前に鼻先を掠めた匂いで全てを理解してしまった。
一度頭を過れば後は次々と昨夜の痴態が鮮明に浮かび上がってきて、鏡を見なくても顔が真っ赤になるのが分かる。
恐る恐る瞼を上げると肘を付いてヴィラルを見ているシモンと目が合った。
「おはよう」
爽やかなともいえる笑顔は普段なら好ましいことこの上ないのだが、今に限っては嫌味にとしか思えない。
いたたまれなくなって毛布を引っ張り上げて、ヴィラルは頭から毛布を被った。
薄暗くなった視界の向こうからシモンが笑うのが聞こえてきて、思いっきり腹を殴るとにわかに静まった。
痛みのせいかシモンの上体が傾いてきて、頭に暖かな体温を感じる。
「ヴィラル、頼みがあるんだ」
自分でやっておいて何だが、シモンの声に痛みに耐える色がないのにほっとする。
「何だ」
「俺はお前が好きなんだ、ヴィラル。だから、昨日のことも今日のことも明日のことだって、ずっとずっと覚えておいて忘れない」
シモンのあまりのストレートな告白に納まりかけていた頬の熱が再発する。
ヴィラルがシモンの顔があるだろう方向に顔を向けると、シモンが毛布を剥がしてヴィラルの視界が晴れた。
籠もっていた空気からひんやりと粒子が細かく変わった空気が湿った頬をぴたりと包む。
「だからヴィラルも覚えておいて? いつか俺が死んでも忘れないでくれないか」
何か言うべきだとは思ったのだが、言葉がみつからない内にシモンがご無体なことを言う。
死なないということになっている者が、いつかは死んでしまう者を愛する恐怖を想像できないわけではないだろうに。
「酷い男だな。さっさと忘れろぐらい言えばどうなんだ」
普通ならそうだろう、と付け加えると、シモンがまた笑顔を作る。
柔らかな微笑みのまま寄ってきた顔に抵抗せずに目を瞑って、触れるだけの口づけを受け入れた。
「俺がそんなことが言えるような男だと思うか?」
ほんの少しだけ顔を離してシモンが少しだけ笑顔の質を変えるのを見て気づいてしまった。
この男もまた迷っているのだ。
いつまでも生き続ける女を前に、有限の命の自分はどうすればいいのか、と。
どんな言葉をかけてどんな世界の見方をさせてやればいいのか、と彼は不意に思い出しては考え込んでいるのだろう。
ヴィラルがどうシモンと生きていけばいいのか分からなくなるときがあるのと同じように。
どんな風に彼の言葉を受け取ればいいのだろうか。
どんな風に世界を見ていけばいいのだろうか。
いつかシモンが、いや、たいせつなひとがいなくなってしまうこの世界を。
そうやって自分が恐れていることを彼はきっと知っている。
まあ、どれも自分の思い過ごしなのかもしれないけれど、と思ってヴィラルは表情を緩めた。
本当に思い過ごしならいいのに。
「……そうだな。まあ精々忘れられないように頑張ってくれ」
なるべく平生と変わらない口調を努めて保ちながら、ヴィラルはごまかすようにどうでもいいことに意識を寄せた。
とりあえず、起きたらシーツと毛布を洗濯しなければ。
「りょーかい」
毛布ごと勢いよく抱き着いてきたシモンの体温をヴィラルはゆっくりと噛み締めた。
いつか彼がいなくなったとしても、どんな朝であっても彼を思い出せるように。