先程までの甘さを孕んだ否定とは違う、泣きそうな声だった。
 羞恥の念などではなく、ヴィラル自身の根底にある何かがそうさせるような声だった。


「悪かったな」


 これ以上強いてしまえば本当に泣き出してしまいそうだった。
 不信の色をしたヴィラル瞳が見上げてきたので、もう言わないと言って聞かせた。


 頬の下に挟んである手を引き寄せてヴィラルの頭を抱き寄せると、柔らかな髪がおずおずと寄ってきた。
 単にバランスの問題なのか、何なのかは分からないが可愛らしいとしかいいようのない仕草に苦笑する。
 金の髪に口づけてから泣き声のときに止めていた腰を揺らめかせた。


「ふぁ…、んん……」


 途端に肩が震え、少し堅さの抜けた声が漏れた。
 は、と熱っぽい吐息をヴィラルが吐き出して、肩の緊張が取れてから頭を戻してやると動きやすいように体勢を整える。


「ぁあっ、んっ…! は…ぁ、んっ……く、あっ!」


 少しずつ動きを大きくしていくと、その度に嬌声が高まった。
 水音がよく響くように掻き回してやると、堪えられないというように頭を振る。
 きつく閉じられた瞼から零れる雫と、閉じられない濡れた唇が光を集めて場違いな程明るく輝いた。


「やぁ……っ、ひぁ…んん! っあ…まっ…」


「ここで、ホントに待ったら、興ざめだよなっ……!」


「――ッああ!」


 強く突き上げながら唸るように言うと、ヴィラルが背を反らせて悲鳴を上げた。
 カミナから見て右側に腕を固定されているせいか、ヴィラルは左側に逃げようとする。
 くん、と肩が鳴るが、もはや体の制御が利かないようで余計に力が籠もっていく。
 このままでは肩が痛んでしまいかねないので、無理やり抱き込んだついでに首筋を軽く咬む。
 強ばる肌にいくつか跡を付けてから至近距離で顔を見上げると、薄く開いていた瞼が閉じてしまった。


「……ヴィラル」


 牙を思うと正直止めておいた方が良いのだろうが、誘うように時折見える舌を見てしまうともうどうしようもない。
 ヴィラルの熱い後頭部を支えて彼女に口付けると、動揺からか金の瞳が覗く。
 挑発的に瞳を覗き込んでヴィラルを窺ってから、隙間から舌を滑らせた。


「…ぅん……ふ…んぅ……!」


 意外にもヴィラルは瞳を完全には閉じなかったし、噛み付きもしなかった。
 視線を外して伏せられた濡れて光る瞳と上気する頬だけでもカミナを高ぶらせるのには十分なのに、消極的ながらも答えてくる舌の動きはそれだけヴィラルの理性の箍が外れているのをありありと示してカミナを誘う。
 牙の鋭さを感じながら十分に口内を荒らしてから、唇を解放すると同時に最奥を貫くつもりで突き上げた。


「きゃ……! ぁああ!」


 背を反らし続けるせいで床と隙間ができた腰の下に頭を支えていた手を回して腰を引き寄せると、締め付けが強まって漏らしそうになった声を慌てて飲み込む。
 多少無理な体勢でヴィラルにも負担があるだろうが、様子を見る限り終わりも近いので問題はなさそうだった。
 零れる涙を舐め上げてから、耳に噛み付くとヴィラルの腰が派手に震える。


「ひ、もっ…やぁあっ……!!」


「――っ、ならイけよ!」


 限界の近い自身を抜けるぎりぎりまで引いて、最奥までたたき込んだ。
 声にならない悲鳴を上げてヴィラルが達したのを見取って、自身の熱を解放する。


「……っん…あ、は……ふ…」


 達した後も途切れ途切れにヴィラルが喘いで、やっとそのまま中に放ってしまったのに気がついた。
 今更抜いたところで何が変わるというわけではないので放っておいて、放心しているヴィラルを抱き締める。
 緊張が抜けてぼうっと開かれた余韻の残る涙で濡れた瞳と荒く息をする口元を長々と見てしまえば最後、再び事に及んでしまいそうなので点々と朱が散る首筋に顔を埋めた。


 無駄な肉のないしなやかな体の差異は本当に微々たるものだ。
 手はともかく、足はあの靴に収まっているのだから、大きさは人間のそれとそう変わらない。
 歯は確かに違ってはいるが、問題にする程とは思えなかった。


「……おい、重い。どけ」


 体力のおかげで回復が早かったのかそれともカミナぼんやりしすぎたのか、不貞腐れた口調でヴィラルが不平をたれる。
 無視して抱き締める力を強めるついでに、体を上に上げるとヴィラルの吐息が震えた。
 それでもすぐに持ち直すと、きっとカミナを睨みつける。


「〜〜〜っ、どけ! 腕が痛い!」


 ほとんどいつもと変わらない調子でヴィラルが喚くので、笑いが堪え切れなかった。
 もう少ししおらしくなっていてもおかしくない状況なのに、彼女の態度は抱く前とそう変わらない。
 けれど、抜けと要求しないのは気恥ずかしさからなのか。


「もったいねえなあ」


 今、彼女に口づければ、即座に噛み付かれるに違いない。
 それはきっと沢山の理由があるのだろうが、最たるものは人間と獣人という区別なのだろう。
 なんのために獣人は人間を殺すのか。
 理由など知ったことではないが、ヴィラルに触れるという一点でとてつもない障害になるのだ。


 それがとてつもなく忌忌しく思える。


「……どうした」


 相変わらず腕は痛んでいるのだろうが、カミナの様子が気にかかったらしくヴィラルが問う。
 彼女の疑問には答えずに、カミナは金の瞳に唇を落とした。